36-文化・芸術ではぐくまれるまちづくり-立川

先日、2024年度最後の立川市文化振興推進委員会を終えた。第5次文化振興計画策定案を答申し一区切り着いた。第2次の策定から関わってきたこともあり、これまでを振り返ると感慨を覚える。2010年3月に立川文化芸術のまちづくり協議会設立記念イベントで基調講演を行ったことがきっかけで、立川市とはもう15年ほどのつき合いになる。よくここまで続いたと思うが、立場の異なる人たちと意見交換し議論することが面白かったからだろう。むしろ楽しいと感じることが多かった。

 当初はいかにも委員会、だったが、みんなが好きなように喋り出せば雰囲気は変わる。この間委員会を通じて、音楽や演劇、バレエなどさまざまな分野の方と知り合うこともできた。あたりまえのことだけれど、視点が変われば見方や発想も変わる。印象的なのは、それぞれが自身の活動のことになると楽しそうに語ることだ。なかなか聞けないような裏話や、海外でのエピソードなどは聴いていても楽しい。堅苦しさがなく、自由に意見を述べ合う。私もこの雰囲気が好きで続けてきたのだと思う。この十数年を振り返ると、部長や担当職員も異動によって替わることが多かったが、それぞれ個性があり、関わり方の違いが出てくることも面白かった。

 この委員会には無理に方向づけようとするところがない。委員の意見によって議案も柔軟に変わり、委員会の運営の仕方が変わっていくこともあった。1時間半と定められていた設定も、いつからか2時間になった。喋り足りないと感じることもなく、それぞれの意見が反映できるからこそ議論が深まり、目指すべき方向性が共有できるのだろう。

 15年も関わると、ひいき目かもしれないが、立川市の文化・芸術によるまちづくりは、なかなかのものだと思う。地道でも着実に成果が現れているし、ひろがりを実感することができる。市民自ら企画する事業も多く、継続して実施されている。さまざまな団体や市民が協力し努力してきた結果なのだろう。市民を主体に位置づける取組は、形だけでなく目に見える形で機能していているように思う。

 たとえば、「ファーレ立川アート」は立川特有のものであり、立川駅北口に点在する109点のパブリック・アートは、季節や時間の変化に合わせて巡るのも楽しい。これらの作品はさまざまな活動を通して生かされ生活に根づいている。民間団体である〈ファーレ倶楽部〉と〈立川市地域文化振興財団〉が協力し、鑑賞ツアーや小・中学校訪問事業、ワークショップなどが日常的に行われている。彫刻の前で小学生が熱心に説明を聞いている光景はほほ笑ましい。学校や市民を巻き込み、「ファーレ立川アート」の魅力と意義を伝え繋げている。

 分野や世代を問わず、幾つかの拠点があることも特徴だろう。旧庁舎跡施設〈子ども未来センター〉は、子どもを中心にした活動の支援センターとして、旧多摩川小学校跡施設〈たちかわ創造舎〉は、若いアーティストの新たな創造と発信の場や、市民と文化・芸術を繋ぐ場として機能している。文化・芸術活動が、市民を中心に多様な主体の情熱によって支えられていることは、素晴らしいと思う。

 〈立川文化芸術のまちづくり協議会〉の存在も立川ならではの存在になっている。「文化芸術による」まちづくり協議会として2009年12月に設立された。市民団体、文化団体、企業、学校、立川市などで構成されたユニークな組織だ。立川市の補助金と企業などの協賛金を主たる財源に運営している。企画委員会を中心に、補助金を運用し文化・芸術活動支援やボランティアの育成、ウェブサイトを通した情報発信などを行なっている。

 私が関心を持ったのは、まちづくり協議会が発足したときに、補助金事業を文化振興財団から協議会に移していることだ。アーツカウンシル(1)として、独立して機能させることが目的だったようだが、文化・芸術活動の財政的支援を分離することで、結果的には文化振興財団の目指すべき方向と役割がはっきりしたのではないかと思っている。それぞれがアーツカウンシルとしての役割を分担して果たし、相乗作用で効果が上がっているように見える。文化振興財団は、イベントの開催をはじめ、他の組織や団体等と協力して、さまざまな活動を柔軟に行なうことができている。立川市の文化振興政策の具体化という点では、一番推進力があるように思う。まちづくり協議会は、作家や団体を点で支え、ボランティアの育成や「立川ビルボード」(2)のような情報の集約と発信を通して、横の繋がりをつくろうとしている。

 アーツカウンシルは、文化・芸術活動支援と振興を目的に設置する自治体はひろがっているが、一つの組織ではなく、異なった背景を持つ組織が補完し合う形態は、立川市独自のものではないだろうか。文化振興財団、まちづくり協議会、立川市、三者の緩やかな仕組みが、立川らしいアーツカウンシルの理念を具現化しているように思う。

 もっとも、それぞれが特有の活動を行っていても、市民が考え方を理解し、関係性や全体として把握できなければひろがっていかない。市内の企業、施設、団体の文化芸術への関心とサポートも大きい。〈立川市地域文化振興財団〉〈立川文化芸術のまちづくり協議会〉が触媒となり、それぞれの独自性と特性を生かしていけば、まだまだ可能性があるように思う。

 15年にわたって、わずかでも立川のまちづくりに立ち会えたことを幸せに感じている。今月の終わりには、たちかわ創造舎の倉迫康史さん、委員会のメンバーでもある国立音楽大学の瀧川淳さんと、一献かたむけながら語り合うことになっている。とても楽しみにしている。

(1)アーツカウンシル

文化・芸術活動の支援と振興を目的に、財政的支援やボランティアの育成、場の提供などを行う専門機関。カウンシルは評議会とも訳され、発祥はイギリスとされる。明確な定義はなく、設置の形態によって活動の範囲は異なる。〈アーツカウンシル東京〉〈アーツカウンシルさいたま〉などがある。

(2)立川ビルボード

〈立川文化芸術のまちづくり協議会〉が運営するウェブサイト。アート、ミュージック、パフォーマンスなどの分野で活動する作家や団体の紹介や、地域の活動を裏で支えている人たちの紹介記事などを掲載している。市民ライターもボランティアで参加し、地域に眠った情報の収集と発信も行っている。tachikawa-billboard.com