駅構内の案内表示はだれのために

先日十数年ぶりに所用で奈良と大阪へ出かけた。奈良は高校生のころ何度も友人たちと古刹を巡った懐かしい場所だ。今回はゆとりはないが、旅を楽しむつもりで出かけた。新幹線で京都へ行き、そこから奈良に向かう。すべてスマホのタッチで改札を通過できるうえ、スムーズに指定席に座れる。以前と比べると本当に楽だ。京都から近鉄奈良駅までの特急券もスマホで予約しておくことができた。ネット環境によって、旅行のスタイルはすっかり変わった。

 近鉄京都駅の改札を入ると、海外からの旅行者が駅員に何やら尋ねているのが目にとまった。不安なのだろうと思いながら、私は予定時刻の奈良行き特急2号車に向かったが、車両にもホームにも目立つ表示がなく、2号車をすぐに見つけられなかった。年齢とともに注意力が散漫になっているせいもあるだろうと、この電車で間違いないかあらためてホームを見渡してみた。駅は昔ながらの懐かしい風景で、ホーム上や柱などに余計な表示がなくすっきりしていた。特急電車も初期の2階建て車両だった。2階席に上がるとさほど混んでいなかったが、半分以上は海外からの旅行者のようだった。最初の停車駅丹波橋では、車窓の向こうで旅行者集団が駅員を取り囲んでいた。特急券がなければ乗車できないことをボードを片手に必死の形相で説明している。このような光景は珍しくないのだろう。

 京都や奈良は有数の観光地で海外からの旅行者も多い。事前に情報を持っていても、駅構内の案内表示はその場で必要な情報だ。大阪での移動中、地下鉄の乗り換えに迷うことも何度かあった。首都圏の駅構内の案内表示は、複雑で慣れていても迷うが、地方に出かけると表示の仕方やデザインの違いに戸惑う。駅構内のサイン・デザインは、だれのためにあるのだろうと考えさせられる。

 近鉄京都駅は、サイン表示は少ないが落ち着いた雰囲気がある。乗り間違えるなど大きな問題がなければこれでいいのかもしれない。普段から情報過多とお節介な指示に慣れ過ぎていることもあって、つい求めてしまうところがある。探索も旅の楽しみの一つだ。

 ただ、鉄道会社のサインシステムは企業ごとにデザインが異なるが、独自性よりも一定程度の共通性があってもいいのではないかと思う。たとえばホームの駅の表示では、中心に駅名、左右に隣の駅が配置される。細部のデザインの差はあっても標準的なスタイルとして確立している。トイレの表示もそうだろう。同じように標準化できそうなことはいくらでもありそうな気がする。路線記号と駅ナンバーは全国で採用されていて、旅行者にわかりやすい。しかし、鉄道各社でデザインや表記方法が異なる。標準的な形体にすることは可能なはずだ。京都や奈良に限らず、どこに出かけても、同じようにサインを認識することができれば、旅行者の不安を和らげるのに役立つと思うのだが。