35-つつがなく過ごした1年

ウオーキングの途中に立ち寄る神社の境内も、すっかり冬景色だ。雑木林は落ち葉で覆われているが、時折北風で舞っている。四季折々、異なる陽射しに映える景色を愉しめることは本当に幸せだと思う。

 神社のお堂も、時を経ながらわずかだが変化していく。人為的な変化もある。小さな修繕が施されていると、何かあったのだろうかと想像する。新しそうな千羽鶴も下がっている。木に結ばれているおみくじにも、この1年それぞれの願いが込められてきたのだろう。いくらか少なくなっている気もするが、新しい年を迎えるためだろうか。

 1年を振り返ると、あっという間だったようでもあるが、つつがなく充実した日々を過ごしてきたようにも思う。在職中は時間に支配され、気がつけば1年が過ぎ、決まり切った仕事や行事を繰り返していることを気に留めることもなかった。今では人前で話をする機会がめっきり減ったが、以前とは違った感覚で臨めるようになった。準備のために時間もたっぷり使える。文章を書くときも締め切りに追われることもあまりない。かつては、調べることも本を読むことも、愉しいという感覚はあっても意識することはなかったが、今では愉しさを心底実感できる。時間のゆとりがそうさせるのだろう。以前読んだ本でも、新たな発見や思考の自由な飛躍を愉しめる。関連する本の選び方、繋げ方も違っている。書棚で眠っていた本を手に取ることも増えた。

 退職時に処分してしまった本や雑誌はかなりあるが、それだけネットで探す愉しみは増えた。欧米の大学図書館のデジタル・アーカイブスは充実しているところが多い。貴重な古い雑誌類は特にそうだ。検索して見つかったときは、古書店で出会ったときとはまた違った喜びがある。スライドをつくるための図版も、以前使用したものよりも解像度の高いデータを入手できる。自宅にいながら自在にさまざまな資料を探せる、30年ほど前は考えられなかったことだ。

 もっとも、最近出版されたものは著作権のこともあり、ほとんどデータ化されていない。図書館に出向くか購入するしかないが、遠出しなければならず、億劫になってしまう。書店には、背表紙を目で追いながら思い掛けず出会う本を見つける愉しみがある。近所には大きな書店が2軒あるが、求めているような本はほとんどない。ネットで本が買え、さまざまな情報がネットで得られる現実を考えると仕方がないのかもしれないが、デジタルとアナログ環境とのつき合い方は難しい。来年は久しぶりに神田の古書店を巡ってみよう。