入学式のころになると

4月になると入学式や入社式など新しい年度がはじまる。入学式のころを迎えると身も心も引き締まる思いがする。私にとって、何十年と経験した入学式には特別の感覚があり、朝家を出るときから独特の緊張感を持っていた。卒業式で1年をリセットし、入学式でリスタートする、そんな気持がいつもあった。
 毎年繰り返されることでも、学生にとっては1回きりの大切な行事であり、4年間の学生生活がはじまる。私にとっては、1年単位で区切りをつけ新しい年度を向かえることが、学生に対する礼儀だと心得ていた。そんな習い性が、惰性に陥ることなく仕事として続けられたのだと思っている。
 それがいつになっても反応してしまうから不思議だ。職を離れてもう数年経つが、1年の節目は1月より4月であり、3月に振り返り4月にこの1年の計画を立てる。
 4月になると、新しい人事や親しい人から赴任先が変わったことなども知らされる。いやが上でも教育現場のこと武蔵美のことを思い出す。
 今年1月にNHKのドキュメント72時間「美術大学 青春グラフィティー」で、武蔵美の芸術祭(学園祭)に取り組む学生たちの様子が紹介されていた。久しぶりにキャンパスでの学生たちの活動を見ながら、変わらず真摯に制作に取り組む姿勢に懐かしさを感じた。
 在職中よく周りから聞かれたのは、学生さんみんな個性的なのでしょうね、という言葉だが、話していると、なぜか変わった髪形とか服装を勝手に想い描いている。個性的には違いないが、特に変わっている訳ではなく、むしろまじめで飾り気のない学生が多い。もう20年以上前から7割ほどが女子学生だし、キャンパスの雰囲気は派手さもなく、外から見れば意外な光景に映るかもしれない。
 ドキュメントではそれがよく現れていた。インタビューに答えていた学生は、将来のことを夢と現実の両面から捉え、数年先のことまで頭に入れて考えていることに驚かされた。しっかりしているな、と感心した。
 美術大学に対しては先入観とか固定観念が働くようだ。仕事の話になると「絵を描くんですか」といまだに聞かれる。何十年経っても変わらないことに驚いている。