大阪の街を歩く

先日久しぶりに大阪の街を散策した。心斎橋筋から戎橋筋まで、これといった目的もなく歩いたのは何年ぶりだろうか。これまでも大阪の街中に出かけることはあっても、ほとんどが仕事絡みだった。息子が大阪の会社に移ることになり、新居を訪ねがてらの旅で1日半ぶらぶらと二人で歩いてみた。

 高校生の頃は、友人と学校の帰りにしょっちゅう歩いていた。その頃から60年以上経ったことになるが、心斎橋筋商店街の雰囲気はいつ訪れてもあまり変わらない。ほとんどの店は代替わりや改築されているはずだから、もっと変わっていてもおかしくない。ただ人混みはこれほどではなかった。スーツケースを曳きながら歩いている人たちが多いのも、はじめて目にする光景だ。

 道頓堀川に架かる戎橋は変わらず人集りで、グリコの看板の前では、思い思いのポーズをとってスマホのカメラで撮影している。看板も今では電光看板になっているが、「グリコの看板」と重ねた戎橋のイメージは60年以上経っても同じままだ。半世紀以上経っても、変わらないものや残っていくものはある。それが地域に根づいている文化なのだろう。

 懐かしい気持になり、お昼は以前ときどき出かけていた、お初天神の側にある「瓢亭」で蕎麦を食べることにした。梅田駅にも近いお初天神の境内は狭いながらも昔のままで、御堂筋からすぐ側なのに雑踏の音もかき消される。お参りをした後「瓢亭」に向かうと入口は昔のままで、店の中も60年前からほとんど変わっていない。名物の「夕霧蕎麦」をいただきながら、息子と思い出話をしていると時間が巻き戻されるような感覚になった。

 周りには私と同じような年格好の人も何人かいる。学生のころよく来てた、と来店する人も多いそうだ。勘定を済ませるとき「味はおんなじやった?」と聞かれて嬉しくなった。「おんなじ、おんなじ」と応えると、満面の笑みで「よかった」と返ってきた。こんなやり取りも大阪の匂いだ。

 中の島を散策し、緒方洪庵の「適塾」にも行った。夜は息子の住まいの近くにある小さなお好み焼きやさんでビールを飲みながら過ごし、夜遅くまで話は尽きなかった。

 翌日の昼は、戎橋筋にある「蓬莱本館」で揚げ焼きそばと豚まんで締めた。「551 蓬莱」と「蓬莱」は同じだと思っていたが、暖簾分けした別々の経営母体であることをはじめて知った。「蓬莱本館」は高校生の頃と同じような佇まいで懐かしかったが、隣にある「551 蓬莱」の店の前には、豚まんを買い求める長い行列ができていた。大半が観光客らしいが、そんな光景を目の当たりにすると、ときは移り変わっているのだと感じる。若い頃の記憶を辿るような街歩きになった。