旅行はできなかったが

16、17日と平泉中尊寺に出かける予定だった。なかなか会うことができない息子との21年前のニューヨーク以来となる二人旅だ。話してみたいことがたくさんあった。この2週間ほどコロナ感染者数が急激に増えはじめ、行くべきか悩んだが、せっかくの機会でもあり行こうと決めていた。
 ところが15日からの東北地方豪雨である。
 それでも16日は、すべての準備を終え出発できるようにしていたが、ニュースで流れる東北地方の大雨警報は不安にさせる。ここは宿に電話して聞いてみるのが確かだと連絡してみた。早朝7時過ぎだったが、とても丁寧に対応してくれた。
 予約していた宿は厳美渓に近く、川が増水していることや雨の状態を説明してくれた。大丈夫とも止めた方がいいとも言わないが、無理をしない方がいいとのニュアンスが伝わってくる。電話で話しながら旅行を諦めることを決めた。
 数分の会話だったが、いろいろな意味で救われる気持ちになった。大丈夫とまではいかなくても、旅行できる許容範囲であることを確認し、納得するために電話したのだが、キャンセルしたことも結果的には腑に落ちた。親身に対応してくれたこともそうだが、宿泊していれば満足できただろうと思う。

 もともと観光だけを目的に旅行計画を立てる方ではない。その土地の人たちや文化に触れることを楽しみにして出かける。見聞が広がり脳が刺激されるからだ。コロナ禍でも、自分なりに折り合いをつけながら過ごしてきたつもりだが、篭ることで思考の幅が狭くなっていると感じていた。
 電話での数分の会話なのに、厳美渓と旅館の雰囲気を少し感じとることができたのも不思議だった。その土地の人に触れた、という感覚を持てたからだろう。出かけることはできなかったが、少しだけ遠出した気分になれた。
 旅行を楽しみにしていただけに残念ではあるが、あらためて計画を立て直してみよう、この旅館に泊まろうという気持ちにさせられる。旅館の人を通して次に繋がったことが嬉しい。
 私がまだ行ったことがないのは、青森県と岩手県、沖縄県だけだ。今回で一つ減ると思っていたのだが、岩手県は再度チャレンジしたい。