偶然からはじまること

 たまたまとか、偶然の出会いや出来事が転機になることがある。その後の人生を変えてしまうことだってある。とはいえ、偶然であっても自分自身が受け入れなければそこから発展していくことはない。それは一つのきっかけでしかなく、乗ってみよう、委ねてみようという気持ちが、どこかで働くから次に進めてしまうのだろう。
 予期せぬ出来事や突然現れる現象は、数限りなくあったはずだ。気に留めたもの、次に繋がったものだけが記憶に残る。
 高校の進学先が決まったのも予期せぬ偶然からだった。私は志望校の入学試験に落ちて、2次募集している高校を受験せざるを得なかった。それも3月になってからだ。
 出願書類をもらうために出かけたのだが、目的の高校がある駅を乗り過ごしてしまった。慌てて次の駅で降りて戻ろうとしたが、ドアが開くと目の前に別の高校の2次募集看板が出ていた。ここでも募集している。戻るつもりが、せっかくだからここの出願書類ももらっていこう、ということになり、その高校に向かった。
 事務室でたずねると、願書の締め切りは今日の5時だという。あと2時間ほどしかない。とても間に合いそうもない。すると恰幅の良い先生らしい人が、少しくらい過ぎても待っているから、という。書類もないし無理だからというと、一緒に来てくれた大学生が、これから中学校に行って書いてもらってくるから、と慌てて駆け出していった。
 その人は時々家庭教師で来てくれる母 の友人の息子さん、当の本人よりも「急がないと」とスイッチが入ってしまったのだ。往復するだけで1時間ちょっとかかる。
 願書をもらいに行く予定の高校はどうするのだろう、と思いながらも、戻ってくるのを待つしかなかった。結局1時間ほど遅れて願書を受け取ってもらった。こうして受験し入学したのが私の母校である。
入学してはじめて知ったが、受け付けてくれた恰幅の良い人は、ダルマと呼ばれていた人気者の名物守衛さんだった。
 高校は先生も教育もユニークで私の性に合っていた。ここで培ったものは今でも生きていて、卒業生として誇らしく思っている。入学時、私の前の席だった友人は、その時以来今でも大切な友人として親交がある。
 私は今でも偶然性を大切にしている。いや、むしろ愉しんでいるかもしれない。案外いい方向に進められることも多いからだ。