3-サイト開設にあたって

コロナ禍によって日々の暮らしが一変してしまった。3月後半から今日までの予定はほとんどが中止や延期となり、今後の予定も見通せない。一昨年から始まった研究会も中断状態にあるが、何よりも応えるのが4月26日からスタートするはずだった「連続講座」である。
講座は、これまでの研究テーマの一つである、絵本をアートやデザインの観点に絞って考察しようというもの。変わってきたとはいえ、絵本をアートやデザインを通して研究する人たちはまだまだ少ない。表現面から絵本の魅力を知ってもらいたい、伝えたい、というのがこの講座の目的である。私自身の年齢を考えれば、今できること、ということになる。
「連続講座」を提案してくださったのは、定期的に開催している研究会のメンバーである。この研究会は、IBBY(国際児童図書評議会)の会長などを務めた島多代さんが遺した言葉と絵本蒐集の考え方を研究する目的で2018年1月にスタートした。「イメージの伝承」を柱に据えた絵本蒐集の背景には、1920年代以降、ヨーロッパからの移住者によるアメリカでの活動と、当時の教育や出版、図書館活動等への関心があった。合わせて、表現面からはロシア・アヴァンギャルドやヨーロッパの美術、デザイン思潮がどのような影響を与え、独自の発展を遂げていったかに注目していた。私は美術、デザイン思潮と絵本について受け持っているが、あらためてロシア・アヴァンギャルドやヨーロッパの美術、デザイン思潮と絵本との関連を掘り下げていくと興味は尽きない。
折しも昨年から今年にかけて、国立国会図書館国際子ども図書館で「絵本に見るアートの100年-ダダからニュー・ペインティングまで」と題する展示会が開催された。2017年11月に「絵本とグラフィックデザイン」と題した同館での講演がきっかけで、展示の協力をさせていただいたが、国際子ども図書館での展示テーマとしては画期的なことだと思う。
絵本とアート・デザインへの関心が高まったところで、この講座をスタートさせたかった。しかし、現状からすればいつスタートできるかなど考えることもできない。
4月26日の会場は決まっていたが、もともと固定した会場は決まっていない。そこで思い至ったのがウェブサイトの開設である。今さらという感じもあるが、表現面から絵本を研究することの魅力や面白さを知ってもらいたい、との想いからである。
私は根っからの研究者ではない。若いころは編集とデザインの仕事と展覧会の企画が中心だった。その後絵本と関わり、ワークショップなども行ってきた。その都度「いま何をするか」を考えてきた結果である。それでも、書籍、雑誌、展覧会図録のために執筆したものもそこそこの数になった。決して完成されたものとはいえないが、あえて公開することにした。少しでも関心の輪が広がればとの願いからである。

2020.7.8