20–初夏の緑に包まれる

花粉の飛散量も少なくなり、数週間ぶりのウオーキング、木々や野山の緑があっという間に鮮やかさを増していた。昨晩の雨に洗われ空気も澄み渡り眩しいくらいだ。
 コロナ禍で3度目の初夏を迎えたが、瑞々しい若葉に新しい命の息吹を感じながら前向きな気持ちにさせられる。
 雑木林を散策していると、緑が持つ力の素晴らしさをつくづく感じる。陽光に照らされて映える緑は、身も心も優しく包み込み穏やかにしてくれる。目に映る若葉とともに木々の香りでリフレッシュできる。

 若葉を見つめ、足下の草を眺めながら、たまには絵を描いてみようと思い立つが、そこで感じているのは心象としてのイメージで、はっきりとした形や色ではない。
 草木の緑はさまざまな色合いをもち一様ではないのだけれど、緑は、色そのものよりも新緑の草木や情景として象徴的に用いることがよくある。緑は、古くは緑色から青色までの広い範囲を指し、暮らしのさまざまな場面で使われてきたことからも窺える。
 「あおあおとした草原」といったり、信号機の緑を「あお」というのもその名残だろう。未熟さを若草のように「あおい」と喩え、乳幼児を「みどりご」というのも独特の表し方だ。

 帰宅後、ときどき使う50色入り「サクラクレパス」を取り出してみた。記憶をたどりながら、描いてみようと思ったとき草木の色が浮かんでくる。実体と直接結びついたとき、はじめて色として意識するのだろう。

 クレパスのケースには、ひらがなで日本の色名と英名を併記して表していた。いつもはクレパスの色合いを見ながら選ぶ、1本ずつの表記やケースに表示された色名をこれまで意識することはあまりなかった。あらためて日本の伝統的な色名が表示されているのを見て、ちょっと嬉しくなった。

 日本には伝統的な固有の色名があるが、普段使わなくなったものの方が多い。日本の色名は暮らしや自然と密接に結びついたものが多く、微妙に違う色にも、なるほどと思える名前が付いている。
 江戸時代には、「団十郎茶」「梅幸茶」「岩井茶」など庶民の娯楽だった歌舞伎と人気役者に由来する色名もあったほどだ。日本人の美意識の現れでもあっただろう。

 「サクラクレパス」の緑系の表示を取りあげてみると、みどり−GREEN、くじゃくみどり− PERMANENT GREEN、あおみどり−DEEP GREEN(3)、ふかみどり−DEEP GREEN、はいみどり− GREEN GRAY、うぐいすいろ−OLIVE GREEN、うすみどり−PALE GREENとなっている。
 面白いのはカタカナ表記しているものもあることだ。たとえば、ビリジアン− VIRIDIAN、オリーブ色− OLIVE、エメラルドグリーン− EMERALD GREENがそうだ。

 これらが採用されたのは馴染みがあるからだろうか。カタカナ表記は該当する日本の色名があまり使われなくなったからか。緑系の色には、芽吹いたばかりの葉のような色を表す萌黄色やネギのような浅葱色、常緑樹の葉の色常磐色など、いつまでも残ってほしいなと思う色名もある。

 いずれにしても、色鉛筆などほとんどが英名表記になっていることを思うと、日本の伝統的な色名が表記されているのは嬉しい。
 時代とともに色に対するイメージが変化していくのは自然な流れだろう。色名は生活と密接であるために、よく使われる色名、消えていく色名があるのも仕方がないが、どんな形にしろ日本の伝統的な色名が少しでも受け継がれていけばと思ってしまう。