1-網走での講座

2月8日、9日の2日間の講座のために19年ぶりに北海道網走に出かけた。
昨年、網走市美術館の古道谷朝生館長から電話があり、久しぶりに講座如何ですか、いらっしゃいませんか、とのお誘いに考えることもなく即答した。テーマが伝えられたのは昨年12月27日、「伝えるということ」だった。てっきり絵本関連かと思っていただけに意外だった。
古道谷さんが言うには、最近解りづらいポスターやテレビのコマーシャルが多いと感じるそうだ。このなぜ、というところからテーマが「伝えるということ」になったという。なるほどと思いつつ、どのように話す内容を組み立てるか、しばし考えさせられた。
「なぜ伝わらない?」は、伝える側、受け取る側、双方の想像力の欠如が引き起こすことであり、言葉と絵、それぞれに隣接するイメージと関わっている。最終的には私の関心に近づけ、ポスターや絵本なども題材に想像力と創造力、ことばとイメージ、理解することについて話すことにした。「伝えるということ」は双方が理解し合うことであり、意図が伝わらなければ、コミュニケーションは成り立たない。
1日目は、講義内容を理解してもらうために導入のワークショップから始めた。

〈言葉と絵のリレー〉
参加者が背を向けた状態で1列に並び、先頭の人に書いた文字を見せそれを絵に描いてもらう。次の人はその絵を見て言葉-文字として書く。言葉→絵→言葉→絵と繋いでいくのだが、最後は思いもしない結果になることもある。最初に提示した言葉は〈リンゴが3つ〉、2回目は〈テーブルの上のパイナップル〉、3回目が〈カゴの中のザクロとドリアン〉、後になるほど絵に表しにくい言葉を選んだ。〈リンゴが3つ〉は言葉にも絵にも表しやすいが、途中ちょっとした想像の飛躍で全く異なったものに変わってしまう。〈リンゴが3つ〉は、最後に〈夏休みの思い出〉の絵で終わった。みんな大爆笑だったが、このような体験を踏まえることで話も伝えやすい。
以下の項目が話したテーマである。

・なぜ伝わらない
・伝えること、伝わること
・わかったとは、どういうこと
・簡略と省略は違う
・しゃべり言葉と書き言葉
・ことばで伝えること、絵で伝えること
・ことばと絵の分かちがたい関係
・イメージすること
・イメージは違いやズレも媒介する
・記憶は曖昧
・象徴と比喩は効果的
・想像と創造
・イラストレーション・写真・映像
・答えは一つではない

盛りだくさんのテーマで、参加者が飽きてくればそこで終えるつもりだったが、休みも挟んで4時間ほどの講義になった。最後に課題「家族に感謝の気持ちを伝える」を伝え、翌日までに少し考えてきてもらうことにした。
2日目は、最初にスケッチを基にそれぞれが発表、全員で批評し合い制作に移った。制作時間が限られていることもあり、B3の画用紙に鉛筆と色鉛筆、必要に応じて色紙、サインペンを用いることにした。
最後に合評会を行なったが、それぞれ家族や姉妹、子ども達への想いが込められ見ごたえのあるものになった。
19年ぶりの講座だったが、網走の人たちの作ることへの情熱と向上心が変わらないことにあらためて心を打たれた。

(1998年〜2002年の講座は拙著『ワークショップのはなしをしよう 芸術文化がつくる地域社会』で紹介している)

2020.3.20